スサノヲの到来―いのち、いかり、いのり

午前中の美術館良いですよね。車で30分くらいのところで日本神話に登場するスサノオをテーマにした美術展があったので行ってきました。

美術館と言いつつ、半分くらいは歴史博物館的な展示です。そこが見たかった。

最初の展示は縄文土器。神話以前の原始信仰からスサノオの気配を読み取ろうというゾーンから始まります。スサノオの主なポイントは以下の3つ。(1)荒ぶる邪神(2)農耕・治水・治金など自然の超越(3)日本初の和歌など文化的な側面。

土器や土偶からはヤマタノオロチに通ずる蛇の表現、農耕との関連が見て取れます。しかしあれですね、縄文土器は火焔土器ばかり気にしているので炎の模様と考えがちだったけど、帰り際に美術館の公園に生えていたブナ科っぽい木を見て、樹皮の模様とも似ているなと気付きました。土器の穴は樹木のうろにも見える。

ここでひとまずスサノオについて簡単にチェキラウしますか。

イザナギイザナミの子である。(ただしイザナミの死後、黄泉から帰還したイザナギが禊を行った際、鼻を洗うとスサノオが生まれた)

アマテラスとツクヨミは姉。

海原だか夜だかを任されたが、母のいる根の国に行きたいと泣き叫ぶ。

根の国に向かう前に姉のアマテラスに会いに行くが、姉に攻め入ってきたと誤解されたので、本心を問う占いをした。

占いの結果、スサノオに悪意がない事がわかったが、それを良いことに暴れまくった。

アマテラスはショックで岩屋に引きこもり世界は闇に包まれた。

神々はなんとかアマテラスを笑わせて外に出し、スサノオを追放した。

各地を転々とする。宿を探しまわるが断られまくる。

腹が減ってオオゲツヒメに食料を分けてもらうが、鼻から尻から食物を出していたため逆ギレし殺害。すると体の各部が粟やら小豆やらになった。これが五穀のはじまり。

出雲に降り立ったスサノオは、美しいクシナダヒメに出会う。

その地を荒らしていたヤマタノオロチを倒しクシナダヒメを嫁にする。

ヤマタノオロチを倒した時にアメノムラクモノツルギ(後の草薙剣)をゲット。

姉のアマテラスに草薙剣を献上する。

新婚生活で幸せいっぱいのスサノオは歌を詠む。これが和歌のはじまり。

体毛を木に変え全国に植える。

若かりしオオクニヌシノミコトに試練を与える師匠的なキャラになる。

オオゲツヒメ殺害は興味深いですね。人気漫画の初期の謎エピソードのような違和感があります。ちなみに、体の各部が宝物やら食物になるというストーリーの神話をハイヌウェレ型神話というらしいです。なんでしょう、今も昔も自然を改変するということについては後ろめたさが伴うものなのでしょうかね。

 

八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣よ

これはスサノオが結婚して新居を出雲に作ることにした時、喜びを歌で表現したものだそうです。これが日本初の和歌と言われています。

実際には後世になって五七五七七に整えられたんじゃないかとも言われてるみたいだけど、まあスサノオが歌を読んだというところが重要です。

あの乱暴者のスサノオが、まじ?って感じだけど、そういうことらしいですよ。彼の文化的側面がここにあらわれていて、母に会いたいと泣き叫んだり、調子に乗って暴れたり、追放されて寂しい思いをしたり、恋をしたりと人間味あふれる神様だからこその歌であり文化だということかもしれない。

最初の和歌だというのに、かなり直情的でスカッとした歌ですよね。新居を作ったとき、その地ににわかに幾筋もの雲が立ち上ってまるで私たちの新居の八重垣のようだ。ああ八重垣のようであるなあ。という意味だそうです。ヘタウマ?

 

次に気になったのは、月岡芳年の浮世絵です。浮世絵と言っても年代は幕末から明治初期。

http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Yoshitoshi_Nihon-ryakushi_Susanoo-no-mikoto.jpg#mediaviewer/File:Yoshitoshi_Nihon-ryakushi_Susanoo-no-mikoto.jpg

(検索すればもっといい画像あります)

これは良いですね。腕、拳、髪と髭。そして真っ直ぐ伸びる剣。ヤマタノオロチドラゴンボール感も素晴らしい。逆なんだけどさ。

 

そして、飛白書金毘羅大権現神号というのもインパクトありましたね。江戸時代の橋本倫蔵という人が「飛白体」という字で表した書です。驚きの書体ですねこれは。木のヘラのようなものを細く裂いたりして筆?刷毛?として使うようです。なかなか検索しても出てこないので、これはぜひ展覧会を見る価値があるかと思います。この展覧会の公式サイトにはちょろっと画像載ってるので見てみてください。

 

円空さんの木彫の仏像も良かった。彼は1632年生まれ、江戸時代初期の人物。岐阜に生まれながら北海道を回ったり関東にも滞在していたりする。荒っぽいつくりの木彫りの像だけど、それこそアイヌのニポポを彷彿とさせる大黒天立像。魂が宿ってる感がはんぱないです。

 

展示はいよいよスサノオ的現代美術へと展開していくんだけど、正直なところ僕は博物学的な方が好きだからね。わりとササーと見ちゃったけど。

栃木美保さんのモイストポプリの展示はすごく良かった。展示が見える前からほのかにいい香りがしてなにかなーと思ったらこれだった。白い麻布で囲われた中にいい香りの塩花が置かれていて、蓋を開けて楽しめる。白い麻布には朱色の糸が縫い付けられていて、照明の効果も素晴らしくて、聖域の雰囲気、いのりの感覚がよく伝わってきた。

 

全体的にはやっぱりスサノオの激情、特に怒りをモチーフにした作品が多い。原発に関連した作品なんかもあるなかで、どうしても正面から向き合いたくない気持ちが出てきたのは反省しなくちゃいけないよなー。

性格的に、剥き出しの怒りとか敵意にすごく弱いんだよね。それは他人が怒ることもそうだし、自分がほとんど怒ることがないのもそれに由来していて。自分に向けられた怒りかどうかじゃなくて、怒りそのものを見るのが怖くて直視できない。そこから逃げるのは得意なので、みんなも逃げてほしいしその方が楽だと思っちゃうんだけど、人間に備わっている機能である以上、もうちょっとちゃんと受け止めてずっと付き合っていかなきゃいけないはずなんだけどね。