京都に半日

1.いい宿

最近よく見かける外国人をターゲットにしたホステルやゲストハウスに近い宿に泊まってみた。部屋は共有ではないので、普通のビジネスホテルとの中間くらいの宿。

中に入るとエントランスがそのままラウンジになっており、中央のキッチンを囲むようにソファやテーブルが配置されている。

予約したプランは輸入ビール1本とおつまみ付き。サリトスというテキーラフレーバーのビールを選ぶ。夕飯は食べてきたので、ラタトゥイユとポテトチップスを少し取った。

キッチンの反対側のカウンターに席を取り、ビールをグラスに注いで本を読む。

フロアには他に若いカップル、40代くらいのサラリーマン、アジア系の観光客、20代前半の女性2人組、着物を着た坊主頭の中年男など様々。端的に言ってごちゃっとした客層である。値段の安さを求めてきた人と洗練された施設を求めてきた人が同居する空間。ある意味味わい深い。

背後のスクリーンには京都市内にある系列ホテルのラウンジが映し出されており、ピアニストがジャズの生演奏をしていた。

 

部屋は木目調の化粧板を使った家具やモルタルの二段ベッドなど、二流っちゃ二流の洒落た宿なのだが、なかなかどうして使いやすい。

気になる点は、部屋が酸っぱい臭いがすること。前の人の汗臭さと言われればそんな気もするし、化粧板や木製家具の接着剤臭と言われたらそうかもしれないと思う臭い。

トイレと風呂は共同だけど、共同って言葉の響きとは違って、普通の商業施設のきれいなトイレと洗練されたデザインのシャワールーム。ビジネスホテルのカビ臭いバスルームより圧倒的に良い。大浴場(小)もある。

f:id:Yoida:20170908213920j:plain

なお、一見ベッドが狭く見えるが、実際に狭い。身長174cmの人間は大の字になって寝た。

 

2.読む本

ラウンジで読み始めたのは『安徳天皇漂海記』だ。イロモノ小説かと思いきや、わりと濃密な中世文学の知識を要求してくるイロモノ小説である。和歌や文献の説明は最小限で、古事記平家物語吾妻鏡伊勢物語方丈記などの古典の数々と、和歌・琵琶語りが鮮やかに織り込まれた物語。中盤まで読み進めたが、感情の状態としては「寂寞」というところである。

安徳天皇漂海記 (中公文庫)

安徳天皇漂海記 (中公文庫)

 

 

3.映画

この日はホテルにチェックインしてラウンジで1杯飲んだら映画を見に行く予定だ。

旅先で映画を見ることの良さを体験したのは、名古屋の伏見ミリオン座で見た大島優子主演の『ロマンス』である。

ロマンス

ロマンス

 

特別ヒットしてないし、大島優子も100点ではない演技だったし、途中再現VTRみたいだったけど大倉孝二が妙にいい味を出しすぎていてなぜか憎めない謎ポジションの映画。

しかし映画の舞台の箱根と、この映画を見た名古屋が共に自分の中で「枯れた旅先」というくくりになっていたために先方の目論見以上に旅情を煽られた結果、非常に心に残る映画になってしまった。

こういうことがあると旅先で映画を見る意味というものがいや増してくる。

さて、予想以上に寛げるラウンジでビールの次は無料のコーヒーを自分で豆から挽いてドリップする。これまた読書にぴったりの環境ではないか。

 

こうして僕は映画を見に行くのを忘れたのだ。*1

 

 

4.京都の中華

目的は第一に好きな寺の庭を眺めること。

第二に少しだけ残ったフィルムカメラのフィルムを使い切ること。

f:id:Yoida:20170909084500j:plain

光明院

朝8時半に寺に入り、志納の300円を納めたあと縁側で胡坐をかいてぼーっとする。

するとどうだろう、蚊が寄ってくるのだ。

一番端の水路の傍にいたので、次の間の畳の方に避難する。静かな時間が訪れる。

かと思いきやまた蚊が来る。逃げる。座る。蚊が来る。逃げる。座る。刺されている。

蚊遣りでも焚いて欲しいが殺生はいかんのだろうか。

 

そのあといくつか書店を巡るがジャストで趣味に合う店はなかった。家の近所に過去最高に趣味の合う店を見つけてしまっているので、まあそれ以上の店に出会うことはめったなことではないだろう。

 

途中、空也上人立像を見に六波羅蜜寺に立ち寄った。口から仏様のあの空也である。

華奢だ。鎖骨が出ている。そして薄い唇。繊細。

意外とそのほかの像もよい。藤原時代の地蔵菩薩は一般的な地蔵イメージよりも遥かに美しい仏像だった。弘法大師空海)はガタイがよく、湛慶は鉢がでかくて俳優の伊武雅刀に似ている。運慶はあたまが尖ってるのが特徴的で目尻にシワがあり頰が出ている。清盛は荒さよりも達観した雰囲気を醸し出している。などなど、それぞれのキャラ立ちがすごい。

 

さて、京都の中華はいつ出てくるんだという話である。

f:id:Yoida:20170917211128j:plain
平安神宮近くの七福家という中華料理屋の黒酢酢豚。

以前この本を涎を垂らしながら読み、京都と中華が強く結びついてしまっている。なんでも京都の中華は具が細かくにんにくを使わない傾向があるとのこと。日本の中で独自の中華料理圏を形成しているという面白い話だった。

京都の中華 (幻冬舎文庫)

京都の中華 (幻冬舎文庫)

 

七福家はどちらかというと一般的な大衆中華食堂でストイックな京風中華ではないと思うけど、濃厚だけどシンプルな香りで後味がさっぱりしている点は京都人の好みじゃないかな。近くにあったら通いたいですねえ。

 

というわけで、一晩泊まってからの半日旅。

なおこの日の夜は銀座でうまい焼肉を食べるという食い道楽な1日でございました。

 

*1:見たかったのはジム・ジャームッシュの『パターソン』